【今週の提言】ミレニアル世代を意識したマーケティング戦略

「うちはプレゼンしていた会社よりも、優秀な人材がいるので、絶対に負けませんよ。見ていてください」――。3月18日から20日に東京ビックサイトで開催されていたPharma IT & Digital Expo 2020の最終日にようやく足を運ぶことができた。このようなイベントの最大のメリットは、複数の人と久しぶりの再会を果たすことができることだ。たまたま聴講したセミナー会場を後にしたとき、10年以上お会いしていなかったSさんに話しかけられた。医薬品業界を取り巻くAIやICTの市場は、ガチガチのレッドオーシャン(血で血を洗う競争の激しい)となっていることを再認識した。


 20日は朝から夕方まで休みなくセミナーを取材していたが、ディシジョン・リソーシズ・グループの前田静吾氏(日本における代表者)が講演のなかで掲げた“10のトレンド”が、イベント全体の内容をひとつにまとめたような内容だったのでシェアしたいと思う。


① デジタル分野が再び活発に

② チャットボットとオートメーションの台頭

③ 行動パラメータとしてのソーシャルデータ

④ Amazonのヘルスケア参入がイノベーションの火付け役

⑤ データプライバシー保護規制でエンゲージメントの再考が迫られる

⑥ 製薬会社のマーケティング担当が優先すべき相手はペイヤー

⑦ EHRの欠点の修正がテクノロジー企業の課題

⑧ ハンズフリーコンピューティングへのシフト

⑨ ミレニアル世代医師が医療の主体に

⑩ ポイントオブケア(医療現場)が患者との多様なタッチポイントへ


 前田氏は自社が実施したさまざまな調査結果を披露していたが、リモートディテーリングの経験がある医師が8%に過ぎない一方、興味があると答えた医師が38%もいることに大きなギャップを感じた。他のセミナーやブースでもリモートディテーリングに関する紹介があったが、製薬企業側に「そんなの受けたい医師がいるの?」という認識がまだまだ大きいように感じる。医師が聴きたい「他社製品との違い」や「治験のデータ」と、実際に提供している情報とのギャップを埋めることができれば、リモートディテーリングの市場は成長していくだろう。以前にも触れたが、リモートディテーリングはMSLに特化しても良いかもしれない。


 チャットボットについては、コールセンターの人材を無くすまでには至っていないが、コスト削減の効果は大きく、特に“フィルター機能”としての効果が大きいと前田氏は指摘していた。チャットボットで知りたい内容が解決できれば、人を介入させる必要がなくなる。チャットボットに投げかけられた質問をもとに、AIがMRに情報ニーズについてアドバイスできれば、刺さるディテーリングにつながるだろう。さらに、「日本の医師は他国に比べて製薬企業のサイトをより多くみている」こともチャットボットの導入・活用に追い風になるかもしれない。


 特に、これから主体となるミレニアル世代(1980年代半ば以降に生まれたデジタルネイティブ世代)は、MRなど企業の人間との直接の接触を好まないが、情報収集量は多い。オンライン診療やICTを用いたコミュニケーションにも慣れている。ドライなミレニアル世代医師に対するマーケティング戦略の構築が、今後の製薬企業の課題のひとつになる。


 ちなみに、冒頭のセミナーの講師は、プレゼンの最後に「患者の人生を、医師の仕事を、MRの活動を支援する手段を構築すること。そして、特定の領域を上流から下流まですべて押さえること」がAI利活用では重要になると指摘していた。

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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリストR事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリストRとは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。

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