【今週の提言】 完全ではない医療や医薬品を補うものを考える

 今年の花粉飛散量はハンパない。起きたとたんに目が痛痒くなり、鼻水が止まらない。これまで花粉症という自覚がなかった私も、仕方なくかかりつけ医を訪れた。受診後に訪れた“かかりつけ薬局”で、こんなやりとりを耳にした。


薬剤師「前回出されたAが効かなかったのでBが出されたのですね?」

患者さん「はい。ぜんぜん効きませんでした」


 眠くならない薬は効果も小さい。飲むと瞬く間に鼻水が止まり、まったく眠くならないというパーフェクトな薬はなかなか存在しない。


 経済産業省が医薬品の費用対効果を議論する際に持ち出してくるデータに「医薬品の有効率」がある。がんは25%、アルツハイマー病が30%、骨粗鬆症が48%、関節リウマチが50%、糖尿病が57%、うつ病が62%――などとなっており、これらの領域で1兆円以上が「効果が薄い」と指摘している。


 先週の金曜日(3月15日)に某社主催の就活生向けイベントで講演した際にも、このデータを紹介したうえで、「完成していない製品を扱うのがMRの役割だ」とMR志望の学生たちに話した。


 完全ではない製品だから「情報」をセットにして届けなければならないし、その「情報」を扱う人材も高い倫理性と使命感を持った者でなければならない。


 もうひとつ重要なことは、完全ではない医薬品という製品の“限界”を知るということだ。これについては幸運にも前日14日に取材した横浜市大の武部貴則特別教授(コミュニケーション・デザイン・センター長)の講演内容をシェアさせてもらった。


 体型が変化すると変色するメタボ向けパンツ「アラートパンツ」など、数々の“医療×クリエイティブ”を生み出している武部教授は、「『健康か、否か』『病気か、そうでないか』『治療するか、しないのか』といった西洋医学的な価値基準によって分別する従来の考え方ではなく、人間らしい生活を送ることを目的(Humanity-centered)とした実践が医療のコアバリューとなるものと予測する」と指摘し、4つのキーフレーズを掲げた。


①Humanity-centered ← ×Disease-centered

 個別の疾患よりも、むしろ、人間らしさ(Humanity)の回復を目的とした医療がなされる


②Connected & Shared ← ×Closed & Isolated

 正しい情報や有益な患者体験が共有化され、孤立した患者や家族を生み出さない仕組みが形成される


③Integral-disciplinary ← ×Inter-disciplinary

 医学・理学・工学・薬学・農学のみならず、メディアやアート、デザイン、AI・テクノロジーなど、より広い文化的規範がHumanityを基軸に、互いに補完し、共創する


④Community-assisted ← ×Physician-led

 健康は、医師主導のもと自己管理という考えから、家庭・職場・学校・医療機関など所属するコミュニティが責任を持てる施策設計が重要性を増す。


 医療や医薬品では埋められない課題を、医療以外の何かで満たせないか。若い人材には、柔軟な発想で取り組んでもらいたい。10年後、MRが情報提供するのは、医薬品ではなく、アプリやパンツかもしれない。


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川越満(かわごえみつる)  1970 年、神奈川県横浜市生まれ。94年米国大学日本校を卒業後、医薬品業界向けのコンサルティングを主業務 とするユート・ブレーンに入社。16年4月からは、WEB講演会運営や人工知能ビジネスを手掛ける木村情報技術のコンサナリストR事業部長として、出版及 び研修コンサルティング事業に従事している。コンサナリストRとは、コンサルタントとジャーナリストの両面を兼ね備えるオンリーワンの職種として04年に 川越自身が商標登録した造語である。医療・医薬品業界のオピニオンリーダーとして、朝日新聞夕刊の『凄腕つとめにん』、マイナビ2010 『MR特集』、女性誌『anan』など数多くの取材を受けている。講演の対象はMR志望の学生から製薬企業の幹部、病院経営者まで幅広い。受講者のニーズ に合わせ、“今日からできること”を必ず盛り込む講演スタイルが好評。とくにMR向けの研修では圧倒的な支持を受けており、受講者から「勇気づけられた」 「聴いた内容を早く実践したい」という感想が数多く届く。15年夏からは才能心理学協会の認定講師も務めている。一般向け書籍の3部作、『病院のしくみ』 『よくわかる医療業界』『医療費のしくみ』はいずれもベストセラーになっている。

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