『週刊誌のツボ』 ★深い記事に“嫌味”はない

 今週は週刊新潮にインパクトのある記事が載った。『刑期を終えた「スーフリ事件」主犯 「和田さん」懺悔録』と銘打った7ページもの独占手記である。「スーフリ事件」は、「スーパーフリー事件」の略。早大生を中心としたイベントサークルを舞台として、飲み会で泥酔した女性を「輪姦」する事件が繰り返され、主犯の早大生・和田真一郎氏のほか、早大、東大、慶大、学習院大生など14人が逮捕された2003年の事件である。


《出所後は一切表に出ず、残りの人生を社会の片隅でひっそりと送っていく覚悟でいました。ですが、一方で犯した罪への償いは、単に刑期を終えただけでは不十分なのではないか。そうも考え、なぜあんな卑劣な行為に及んだのかをお話しすることで、ご迷惑をかけた世間へからの「問い」に少しでもお答えできればと思い、今回、取材に応じることにしました》


 和田氏はそんな前振りから、15年間の刑務所での日々や事件に至る大学生活について、詳細に語っている。文字起こしした言葉だけで、判断してしまうのは危険だが、その回想や語り口を見る限り、悔恨に満ちた証言には、彼なりの“真摯さ”が感じられる。猟奇殺人や詐欺事件などの“当事者の弁”にありがちな、身勝手な言い逃れ、自己正当化のニュアンスはほとんど感じられないのだ。


 夜遊びにはまり、サークルイベントの成功に酔ううちに、舞い上がってしまい、いつしか大勢でひとりの女性を犯す行為にも抵抗を感じなくなっていったという。《にわかには信じてもらえないでしょうが、正直に言えば、それは私が“セックスできる女性を独占するのは他の(男性)参加者に悪い”“自分だけがおいしい思いをするのはズルい”という狂った感覚に囚われていたからです(略)後輩や友達に食事をおごるような気分に近かった》


 有名大学の学生による似たような事件は、“その後”も相次いでいる。《他の事件については、私がとやかく言う資格はありません。ただ、私自身については結局「歪んだ優越感」というのが最大の元凶だったと思います》。周りの短大生などを「バカ短大」などと見下していたといい、“その後の事件”の関係者にも、同様の問題があったのではないか、と語っている。


 新潮の記者にしても、ここまで率直な証言を得られるとは、想定していなかったのではないか。通常の新潮記事のような邪推や嘲りに満ちた文章はなく、正面から対象に向き合った“真っ当な記事”になっている。一般論で言えば、相手の対応に誠実さを感じ取り、内面を知れば知るほどに、中傷記事は書きにくくなる。遠巻きに憶測交じりで書く記事ほど、容赦なく罵声を浴びせやすい。言い換えれば、取材力のある記者ほど、“歯切れのいい記事”は書かなくなる。“舌鋒鋭い記事”は往々にして“適当な記事”なのだ。


 今週の新潮にはもう1本、『「大坂なおみ」も知らないファミリー・ヒストリー 曾祖母が自伝に綴ったソ連兵「北方領土」収奪の日』という興味をそそる記事があった。世界一となったテニス選手・大坂なおみさんの母方の祖父は根室漁協の組合長であり、さらにその母親は北方領土のひとつ歯舞群島の出身者だったという。残念ながらこの記事は、曾祖母が遺した自伝の紹介にとどまっていて、周辺取材はほとんどされていない。せっかくのテーマを生かし切れなかった感がある。より深く、より読み応えのある記事を――。個人的にはそれこそが、雑誌低迷期を生き延びる“唯一の道”だと思っている。


………………………………………………………………

三山喬(みやまたかし)1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。

0コメント

  • 1000 / 1000