肝心要の腎機能が衰えたら

 85歳女性。腎機能低下と変形性膝関節症のため通院治療中。軽度認知症の87歳夫、会社員の62歳長女との3人暮らし。


 4日前、孫の結婚披露宴の翌日から倦怠感やむくみが出現した。食欲低下に加えて息苦しさも出てきたため病院を受診したところ、腎不全に伴う心不全と診断、入院となる。


◆看護師の教材にも登場した高齢者透析


 これは、日本看護協会が公開している「看護職のための自己学習テキスト」で、「高齢者の血液透析の選択」をテーマとした検討用事例のイントロダクションだ。


 この後、患者の心不全状態は緊急血液透析で改善したが、医師は血液透析を始めるタイミングと判断し、患者本人と長女に「週3回4時間ずつの透析が必要」と説明する。


 患者は「夫の世話を続けるために元気でいたい。頻繁に病院に行くことになっても、体が楽になるならやりたい」と積極的。一方、長女は患者の前ではうなずくものの、既に父親の介護のために度々休暇をとっているなかで、母の透析の付き添いと仕事の両立ができるか不安を抱き、透析以外の選択も考えている。


 さらに看護師は、患者が血液透析について十分にイメージできていないのではないかと考え、長女のサポートをどう行うか悩んでいる、という設定だ。


 これに対し教材上は、看護師が「患者にとって最善を考える視点」を持ち、①血液透析を開始した場合としない場合の生活の変化や自己管理等について患者の理解に合わせた説明をすること、②その際、今後のADLの変化も予測し、ひとりでは通院困難となった場合の対応についても話し合うこと、③そのうえで、活用できる社会資源についての情報も提供し、患者・家族の不安を軽減しながら、納得して意思決定できるよう支援していくこと、をポイントとして挙げている。

◆80歳以上の透析患者は6万人


 この事例はわが家の状況に近く、身につまされる。


 87歳の母は昨春以来、腎機能が悪化して、年末には主治医の「血液透析をせざるを得ない」との判断に従い、シャントを造設した。細い血管を上手につないでもらい出来は上々だが、病院で透析試行という段になって関連の検査値が低空飛行ながら安定。なるべく透析導入を遅らせるために、外来で保存療法を行っている。


 アシドーシス→重曹、高血圧→降圧剤、老廃物の排泄→球形吸着炭細粒、カリウムの排泄→ポリスチレンスルホン酸カルシウムゼリー、貧血→鉄剤、骨量低下→活性型ビタミンD3製剤、と腎臓が行うべき機能を薬剤で補っている。まさに腎臓のありがたさを感じる処方だ。


 薬剤師の端くれで、管理栄養士学科の学生でもある筆者が、検査値を見ながら主治医に相談して一包化しやすい服薬方法に変えてもらい、一緒に食事するときくらいはざっと栄養計算をしている。同居している妹が仕事さながらに介護事業所のスタッフに依頼してテキパキと老親の生活環境の改善を図る、と家族も奮闘の真っ只中だ。


 いったんは透析導入を観念して受け入れていた母は、「透析なんて腕に“釘”を2本刺してやるんだから、あんなの無理」と度々言うので、いよいよ導入という時に備えて何気なく抵抗感を和らげられる方法もあれこれ考えている。


 日本透析医学会が4,336施設から得た調査結果をまとめた『わが国の慢性透析療法の現状』(2016年12月31日現在)によると、わが国の透析患者は血液透析(HD)と腹膜透析(PD)を含め、329,609人。年間の新規導入患者は39,344人、透析患者死亡数は31,790人だった。1982年末に80代180人、90歳以上2人だった透析患者は、2016年末にはそれぞれ54,398人と6,095人に達しており、高齢者透析は今後大きな課題になってくると思われる〈下表〉。

 臨死期にある日本人の約80%が自宅死亡を望むが、その70%は無理なことを承知しているという。特に、HD患者の場合、最期を自宅で過ごすことは非常に難しい。また、HD継続中止は概ね1週間前後で死をもたらすとされる。


「なんだか大変な病気になっちゃったねぇ」と気落ちしている母に、まさか今そんな一般論を伝えることはできない。経過を見ながら少しずつ先のことを話すしかないのかな、と考える今日この頃である(玲)。

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