『週刊誌のツボ』 ★文章は伝わらない

 今週は、週刊プレイボーイの1本のコラムに目が留まった。作家・橘玲氏の『真実のニッポン』というコラムだ。『The Truth Of This Week(今週の真実)』というフレーズに続いて、『パソコンで基本的な仕事ができるのは日本人の1割以下?』と、タイトルが付されている。


 職業柄、パソコンでの作業はワードと写真ソフト、メール、ネットに限定され、エクセルさえ苦手とする私には、委縮してしまうタイトルだが、本文を読んでみると、そんなことではない。もっとすさまじい話だった。


 24の国と地域で約15万7000人の大人(16歳以上)を対象に、仕事に必要な読解力、数的思考能力、ITを活用した問題解決能力を測定した「国際成人力調査」を紹介したもので、筆者はその結果をセンセーショナルにこうまとめている。


①日本人の約3分の1は日本語が読めない。


②日本人の3分の1以上が、小学校3~4年生の数的思考力しかない。


③パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。


④65歳以下の日本の労働力人口のうち、そもそも3人に1人しかパソコンが使えない。


 何よりもこの最初の項目がショッキングだ。橘氏は「中高生の3人に1人が簡単な問題文が読めない」とした新井紀子・国立情報学研究所教授の調査事例に触れ、うなずける結果だと記している。少し前に話題になった新井氏の著書『AI vs.教科書が読めない子どもたち』は、私も読んだ本だった。


 改めて書架から引っ張り出してみると、確かに似た結果が記されている。《幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた》という文章と《1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた》という文章の内容は、「同じ」か「異なる」か。そんな設問に、中学生の43%、高校生の29%が、「同じ」と回答してしまったという。約2万5000人への調査で示されたそんな実例が次々と出てくるのだ。


 結局、勉強ができない子は、問題が解けるか解けないか以前に、何を聞かれているのかがわからない。日本語が読めないから、理科も算数もできない。しかも新井教授によれば、この“ダメさ加減”は、読書習慣や読書量、読む本の種類といったデータと一切相関関係がないのだという。


 コラムに話を戻すなら、この「国際成人力調査」は、こんな惨憺たる結果にもかかわらず、日本は先進国で1位。他国はもっとひどいという。この結果をどう受け止めたらいいのか。橘氏はそう問いかけ、自身の新著『もっと言ってはいけない』を読んでほしい、と締めくくっている。要は自著の宣伝コラムだが、いずれにせよ、物書きとしては「何をどう書いても、文章では世の中の3分の1の人には伝わらない」という現実はショッキングだ。


 時代をさかのぼれば、ほとんどの庶民は読み書きができなかったし、その昔、旧制中学に学ぶことができたのも、ひと握りの人に限られた。昔も今も、世の中は「こんなもの」なのかもしれない。問題はこの「3分の1」が増加傾向にあるのか、減っているのかだ。調査の継続を望みたい。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)など。最新刊に沖縄県民の潜在意識を探った『国権と島と涙』(朝日新聞出版)がある。

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