腎臓にとっても、腸は大事

 『腎臓学・元年~データサイエンスが導く新たな世界~』をメインテーマとし、6月に名古屋で開かれた第62回日本腎臓学会学術総会を覗いてみた。意外な切り口で興味深かったのがシンポジウム『共生する腎臓と微生物』。「腸腎連関」につながる知見が発表されたからだ。


◆腸内細菌叢を柱とする「腸腎連関」


 ヒトの腸管内には500~1000種類、約100兆個の細菌が常在している。腸管は、全身のリンパ系組織の60~70%が集まる体内最大の免疫器官でもある。中でも腸管粘膜やその周辺には、腸関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue; GALT)が発達している。膨大な食物抗原や腸内細菌由来の抗原に曝露される腸管粘膜で、過剰な免疫反応が誘導されないのは、GALTによって免疫寛容と賦活の絶妙なバランスが保たれているからだ。


 疾患に関わるような、好ましくない腸内細菌叢の状態(菌種構成の変化や菌種数・菌数の異常)を「ディスバイオーシス(dysbiosis)」と呼ぶ。


 近年、ランダムに切断された数千万~数億のDNA断片の塩基配列を同時並行的に決定できる「次世代シークエンサー」を用いた菌叢解析や、代謝物の網羅的解析などの技術が飛躍的に向上した。その結果、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、クロストリジウム・ディフィシル感染症などの腸疾患だけでなく、肥満、糖尿病、自閉症などの腸管以外の疾患でも「ディスバイオーシス」がみられるとの報告がなされるようになった。


 腎臓疾患も例外ではない。慢性腎臓病(CKD)では、いわゆる善玉菌(ラクトバチルス属、プレボテーラ属、ビフィドバクテリウム属など)の菌種割合が減少し、ブラキバクテリウム属、カテニバクテリウム属、腸内細菌科などが増加しているとの報告がある。


 CKDで「ディスバイオーシス」が生じる機序は未解明ではあるが、酸排泄障害に伴う代謝性アシドーシス、尿毒素の蓄積、経口治療薬(鉄剤やイオン交換樹脂など)の影響、便秘、栄養障害などの関与が示唆されている。


 CKD患者では、カリウム制限に伴う生野菜の摂取不足などによって、食物繊維摂取も不足しがちで便秘になりやすい。尿毒素の中には、食事由来のアミノ酸から腸内細菌代謝を介して生じるものがあり、大腸での便の滞留時間が長いと産生量が増える。便秘は電解質平衡にも悪影響を与える。

 一方、CKDでは腸管壁も変化する。腸管免疫において、通常は病原体の侵入を防いでいる「上皮細胞の強固な結合(tight junction)」が緩み、本来腸にとどまるべき細菌群が全身循環に入って、炎症反応を引き起こす可能性が示唆されている。


 全体として、CKDが「ディスバイオーシス」を引き起こし、「ディスバイオーシス」がCKDを悪化させるという悪循環の姿が見えてくる。


◆腎臓疾患との関連やマーカーに注目


 今回のシンポジウムで取り上げられた主な知見を、以下に紹介する。


 ヒトの腸内細菌叢の確立とその異常(関西医科大学小児科学講座 辻章志氏):小児特発性ネフローゼ症候群患者の腸内細菌叢や便中有機酸分析を行った結果、制御性T細胞(Treg)の誘導に重要な役割を果たしている酪酸を産生する菌が減少していた。3歳頃までに成人と同様の菌叢が確立されることから、小児期は成人期以上に「ディスバイオーシス」が健康に及ぼす影響が大きいと考えられる。


 糖尿病腎症(DKD)の新たなマーカーであり原因物質であるフェニル硫酸(PS)の意義(東北大学大学院医工学研究科・医学系研究科 阿部高明氏):ヒト腎臓特異的代謝を模した排泄モデル(トランスジェニックラット)で糖尿病(DM)状態での代謝物解析を行い、PSをDKDのマーカーかつ原因物質候補として同定した。PSは食事中のチロシンが腸内細菌のチロシン・フェノールリアーゼ(TPL)によってフェノールに変換された後、肝臓で硫酸抱合されて生じ、尿中排泄される。また、PSは腎機能が正常でもDMでは産生が増加しており、糸球体基底膜表面を覆う細胞(ポドサイト)に傷害を引き起こしてアルブミン尿を増加させる。これまでDKD進行の機序は不明だったが、初期のステージでPSを測定し、高い人に介入すること(TPL阻害など)が創薬のターゲットになり得るのではないか。


 細菌叢と腎臓をつなぐD-アミノ酸(金沢大学大学院腎病態統御学 和田隆志氏):腸内細菌叢由来の代謝産物が尿毒素として腎臓や他臓器に影響を及ぼす。近年、アミノ酸の光学異性体を分離同定する技術が向上し、光学異性体(L体とD体)を各々定量評価できるようになった結果、両者は体内での動態や生理活性が異なることが示された。特に、腎にはD-アミノ酸の受容体、合成酵素、尿への排泄機構などが存在し、体内量を厳密に制御している。腎障害などで恒常性が保てなくなると、D-アミノ酸の体内動態も変化することがわかってきた。

 腸管バリアの破綻と腸腎連関(川崎医科大学腎臓・高血圧内科学 佐藤稔氏):腎不全で悪化した腸内環境の改善がCKDの新たな治療ターゲットになる可能性があると考え、ヒトが自ら産生する抗菌ペプチド(総称ディフェンシン)に注目。慢性腎不全では「尿毒素の増加→腸内ディフェンシン発現の変化→腸内細菌叢の変化」が起きているとの仮説を立てた。腸管バリア機能の改善が尿毒素を減少させ、CKD進展阻止の有効な治療法につながると考える。


 まだ個別の知見ではあるが、ヒトマイクロバイオーム(微生物群ゲノム)の解析が進む中、腎臓だけに目を向けるのはなく全身、特に腸内細菌叢との関わりからアプローチすることで、腎臓疾患の治療やケアに革新がもたらされる可能性がある。


 また、腸内細菌の代謝によって生じる腸管由来尿毒素としてアミノ酸が挙げられていることから、CKDにおけるタンパク質制限の意義が経験でなく機序として説明できる日が近いようにも思う。さらに、プロバイオティクスとプレバイオティクス(いわゆる善玉菌と、その増殖に働く難消化性食品性分)を用いた腸内細菌叢のコントロールの意義についても、一歩進んだ裏付けが得られるかもしれない(玲)。

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