エビスグサ・ハブソウ・センナ:ヘンナ三兄弟?

 エビスグサという名称は、“エビス” が “外来の” という意味を表す言葉なので、外来の草という意味になり、日本の在来種ではないことがすぐにわかるが、アメリカ原産の薬用植物である。日本には中国経由で江戸時代に入ってきたようで、これの種子がケツメイシ(決明子)という生薬である。生薬の講義の際にケツメイシという名前を出したら、それまでに授業では取り扱っていないにも関わらず学生が知っていたので不思議に思いながら話を進めると、実は学生が知っていたのはケツメイシという薬剤師で結成されているヒップポップグループであって、決明子という生薬を知っていたのではない、ということがわかり、苦笑いしたことがある。わりと最近の話である。

エビスグサ


 この決明子を軽く炒ってお茶として利用するとハブ茶と称される。筆者が学生の頃には、京都では地域の小さなスーパーにもハブ茶が置かれていたように記憶しているが、最近ではあまり見かけなくなった。吹き出物など肌トラブルの解消に良いと言われており、生活費に少し余裕ができると購入して飲んでいたものである。赤っぽい褐色の香ばしいお茶は美肌効果を期待して飲む嗜好品としてはちょうどよく、筆者は結構好きであった。


 ハブ茶を飲むと吹き出物などが軽減すると感じられたのは、今から思えばその弱い瀉下効果によるものと思われる。いわゆるニキビや吹き出物の類は、便秘状態を解消すると軽減する場合がしばしばあるのである。決明子を割ってみると、光沢のある茶色い殻の内側には黄色い粉末が詰まっている。決明子は植物の部位としては種子なので、この粉末は発芽する際に使われるデンプンやタンパク質、脂質などを含んだものであるはずだが、色がかなり黄色いことに特徴がある。この黄色い色の由来となっている成分には、オブツシフォリンやエモジンなどアントラキノン系の化合物が含まれており、それらに弱い瀉下効果があるとされている。


 しかし、ハブ茶として利用する際には種子を割って粉末にするわけではなく、そのまま軽く炒ってあるだけである。これをお茶にした時に中のアントラキノン系の成分がお茶の方に多量に抽出されるとは考えにくいが、全く抽出されないわけでもない、はずである。また、アントラキノン系の化合物は熱で比較的簡単に壊れてしまうので、炒るという作業でアントラキノン系化合物を減量しているとも考えられる。それで、ハブ茶は絶妙に適度に通じが良くなるお茶なのではないだろうか。

 エビスグサの近縁植物でエビスグサと同様に種子を生薬やお茶にするものにハブソウがある。生薬名をボウコウナン(望江南)という。ハブ茶にするのはハブソウじゃないの、と思われるかもしれないが、少なくとも近年市販されているハブ茶はエビスグサの種子の方である。調べると、もともとハブソウの種子(望江南)をハブ茶にしていたが、よく似た植物でエビスグサの方が種子の収量が多かったので、次第にエビスグサの種子(決明子)がハブ茶として使われるようになった、らしい。

ハブソウ


 ハブソウとエビスグサはどちらもセンナ属という分類群に属し、花の形はそっくりである。草姿もよく似ているが、小葉の先がうちわのように丸っこい感じなのがエビスグサ、槍のように尖っているのがハブソウである。他方、種子の形は全く違う。茶色いタネが写っている写真の左半分がエビスグサの種子、右半分がハブソウの種子であるが、ご覧の通り、エビスグサのは光沢があって平行四辺形状の箱のような形だが、ハブソウのは光沢がなくて平たいヒヨコの頭部のような形である。種子が入っている鞘は、エビスグサでは湾曲して垂れるが、ハブソウではまっすぐ空に向かって伸びる。さしずめ、インゲンマメとソラマメの違いのようである。

決明子と望江南


 エビスグサとハブソウに花の形がそっくりな、日本で汎用される薬用植物がもう一つある。センナである。文字通りセンナもセンナ属に分類される。しかし、エビスグサ・ハブソウとセンナとでは、かなり異なる点が多い。まず、使用部位である。センナは主に葉(小葉)とセンナポッドと呼ばれる果実(種子が入った平たいマメ型の鞘)を生薬として利用するが、いずれも専ら医薬品と称される成分本質に分類され、つまり、医薬品としての利用しか認められていない素材なのである。これは、センナの葉や果実には強い瀉下作用を表すセンノシドAなどの成分が多く含まれており、医薬品として下剤の効果を期待して使用するものだからである。

センナ


 植物素材で下剤の作用があるものは、しばしば体重減少・ダイエット効果を謳う健康食品や茶剤のブレンド材料として使われる。これは食べたものを水分と一緒に下剤でどんどん出してしまえば、短期間で数値的に大きく体重減少の効果が得られるからであるが、これは健康被害が発生しやすく、たいへん危険なことである。センナはかつてこの目的に多く利用された歴史があり、小葉と果実が専ら医薬品として規制されると、それでもセンナ入りのダイエット茶を作りたかった業者が、小葉ではなく、葉軸や葉柄のみにした部位を使った製品を登場させたらしい。しかし、センナの葉軸や葉柄には小葉と同程度のセンノシド類が含まれる場合が多く、これらが食品として一般に出廻るのは危険なため、現在では果実、小葉、葉柄、葉軸が専ら医薬品とされている。


 もうひとつ、両者が異なる点は栽培に関してである。エビスグサとハブソウは日本の各地で露地栽培が可能だが、センナはそうはいかない。現在の世界のセンナ主産地は、インド南部やアフリカのナイル川中流域など高温で乾燥気味の地域である。薬用植物園であってもセンナを日本で栽培するのはなかなかに困難で、温室内でかつ多湿にならないように管理しないと、すぐにダメになってしまうようである。


 エビスグサ、ハブソウ、センナ、いずれもセンナ属の薬用植物だが、それぞれに異なる特徴を持った三兄弟である。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・伊藤美千穂(いとうみちほ) 1969年大阪生まれ。京都大学大学院薬学研究科准教授。専門は生薬学・薬用植物学。18歳で京都大学に入学して以来、1年弱の米国留学期間を除けばずっと京都大学にいるが、研究手法のひとつにフィールドワークをとりいれており、途上国から先進国まで海外経験は豊富。大学での教育・研究の傍ら厚生労働省、内閣府やPMDAの各種委員、日本学術会議連携会員としての活動、WHOやISOの国際会議出席なども多い。

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