ジュニアアスリートの体を守れ

 東京オリンピックまで1年を切った8月3日、『未来のトップアスリートのための体感型スポーツ栄養セミナー2019』が東京都・品川で開催された。主催は日本栄養士会だが、栄養士会会員だけでなくジュニアアスリートの保護者や指導者も参加可能で、「食生活の基本」、「試合前・中・後の食事」、「熱中症の予防」などを学べる。


 卓球、水泳、フィギュアスケートなど選手層の厚いスポーツでは、就学前から始めて小中学生時代には既に厳しい練習を重ねていたトップアスリートが目立つ。試合後のコメントが大人顔負けの中学生もいるが、体はまだ成長期まっただ中だ。


 このスポーツ栄養セミナーの目的は「いかに勝たせるか」ではなく、「いかに体を守るか」にある。その趣旨を広く理解してもらうために、2016年の開始から2020年3月までに4年かけて全都道府県で開催するという(一部は複数県合同開催)。


◆成長スパート期は練習より体が優先

 

 日本栄養士会は2008年から日本スポーツ協会と「公認スポーツ栄養士」を共同認定してきた(2017年末の登録数259名)。対象は、実際にスポーツ栄養指導に携わっている管理栄養士で、講習会と検定試験を経て認定される。検定試験は、共通科目(筆記)のほか、口頭試験やプレゼンを含む専門科目もある。今回のセミナーは、栄養とスポーツに精通した、この「公認スポーツ栄養士」がプロデュースした。


 主食のバラエティのつけかた、たんぱく源(鶏豚牛魚など)のローテーション、栄養価をアップする和え衣やトッピングなどを具体的に教える「アスリート弁当(アス弁)」を実食できることも「100名の定員が申し込み開始からすぐに埋まる」人気の要因だ。

調理の工夫を教える「アス弁」


 キーパースンは、日本栄養士会の副会長でもある鈴木志保子氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授)だ。鈴木氏がアスリートに関わり始めた約30年前、陸上長距離選手は「月経がなくて一人前」という風潮があった。ところが、15~16歳でも初潮がこない「初潮遅延」の女性アスリートは、競技をやめて治療しても回復しない例が多かった。原因は俗に言われるような体脂肪の問題ではなく、女性生殖器が発達すべき時期の「栄養不足」による子宮・卵巣の発育・発達不全であることがわかってきた。


 ジュニアアスリートでは、一見「ものすごくたくさん食べている」ようでも、食事の内容の優先順位づけ次第で「栄養不足」に陥ることがある。


 子どもに限らず人間が食べられる量には限界がある。しかも、競技に打ち込んでいるときは交感神経優位で、消化・吸収機能が低下する。上限がある摂取エネルギーの使い道を「①生きる(代謝)」、「②発育・発達」、「③運動」に分けて考えるとき、①②をしっかり確保したうえで余剰を③に使えばよいが、①の次に③を置き余剰を②にあてると「両親に比べてずいぶん小柄なアスリート」をつくってしまう恐れがある。


 第二次性徴期に急激に身長が伸びる「成長スパート」は、平均的には女子で11歳頃、男子で13歳頃がピークとされる。ところが、近年は個人差が大きく、必要な栄養量も学年別でひとくくりにはできない。小学校中学年からスパートがかかる女子も少なからずおり、中学に入ってからたくさん食べさせても「ただ太るだけ」ということになりかねない。


 そこで鈴木氏は、順調な発育・発達のために最も重要な「成長スパート」期を見逃さないよう、既存のソフトウェア*活用も勧めている。その時期に入ったら、「何をおいても成長優先で練習量を減らす」、そうしないと「結局は先々その競技を続けられない」と警告する。


*女子用は順天堂大学女性スポーツ研究センター「スラリちゃん、Height(ハイ)」(http://www.juntendo.ac.jp/athletes/surari/)、男子用は国立病院機構西別府病院「ヘルスメイト」(https://nishibeppu.hosp.go.jp/section/cnt1_00103.html)


◆基本を見失わない指導が必要


 スポーツ栄養士が成人アスリートから受ける相談には「エネルギーをたくさん摂って体格を大きくしたい」という要望があるという。しかし、前述のように食事で摂れる量には限界があるため、脂質(揚げ物や良質の油脂)でカロリーを稼いで食事量をコンパクトに抑えることもある。同時に、野菜等で補いきれないビタミンやミネラルをサプリメントでカバーするのは「今や常識。すべて食べ物でという考え方はもう古い」、「適切なサプメント摂取をアドバイスするのは管理栄養士の役割」と鈴木氏はいう。


 その一方で、「ジュニアアスリートには、サプリメントが必要なほどの運動をさせてはいけない」(鈴木氏)。


 セミナー会場の後方には8社がブースを構えたが、「味の素」が提案する「パワーボール」(温かいご飯25gほどに「ほんだし」を混ぜてラップで握ったもの)、武田食品工業の事業を継いだ「ハウスウェルネスフーズ」の「サプリ米」(炊飯時に混ぜてビタミン、鉄、カルシウム、葉酸などの栄養を強化)、「大塚製薬」が得意とする水分補給法(凍らせて飲むことで体の深部からの冷却効果を狙う「ポカリスエット アイススラリー」や植物由来の乳酸菌で免疫力アップを謳う「ボディメンテ」)など、日常の飲食に取り入れやすい形のものが目立った。


 どの年代にとっても基本中の基本は、適切な量の栄養素〔炭水化物(糖質と食物繊維)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル〕をバランスよく摂ること。特に、糖質はトレーニングを行う上で重要なエネルギー源となる。また、糖質代謝と脂質代謝をロウソクに例えると、芯が糖質、ロウが脂質、炎は代謝が回っている状態に相当する。ここで「芯がないと火はつかず、ロウは燃えない」つまり、糖質がないと脂質もエネルギーとして使えない。


 しかし、昨今は用語の混乱があり、「自分にとって過剰な糖質を摂っていた人が、本来の適正量を摂るようになったことを“糖質制限”とは言わない」と鈴木氏は指摘する。糖質制限によって「アスリートのパフォーマンスが向上したか」、「減量効果が上がったか」を検討したメタ解析でも、明確な効果を示すデータは示されなかったという。


 東京オリンピックに刺激を受けてトップアスリートを目指す子どもが増えるかもしれないが、かけがえのない成長期に誤った指導を受けて後々後悔することがないよう、スポーツ栄養の裾野を広げる必要がありそうだ。

「勝ち飯」を展開する味の素


栄養強化米を揃えたハウスウェルネスフーズ


大塚製薬は水分補給法を提案


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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。

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